すこし先、そのさらに先。
帰りに最寄りの駅の改札を出て、家に向かっていた。
線路沿いの幅の狭い歩行者専用の道を歩いていたら
おばあちゃんがポールを引き抜こうとしていた。
もう22時過ぎ。おかしい。
これはツイッターのネタになる!
さすがにそのまま放っておけなくて、声をかけたら
「持って帰りたいので手伝ってくれません?」という。
そのポールはハードなものじゃなくて
グニョグニョ動くあたっても痛くないタイプのやつ。
歩行者専用なので自転車が入らないように
互い違いにそのポールは立っている。
「いやぁ、俺でも抜けないですよ。
それよりおばあちゃん、お家はどこ?」
「うちはその高架下をくぐってすぐなんですよ。」
「じゃぁ、とりあえずお家まで送りますよ。」
「そうですか?じゃぁ、子どもたち呼びますね。」
(子どもたち…?どこにいる?
すぐそこにある保育園のことかな?)
「△△子ちゃん、帰りますよ。もう地べたに座っちゃって。」
と声をかけたのはすこし離れたポールだった。
ポールをグニョーンと引っ張りながら、
「ほらこの方が家まで送ってってくれるって言ってるからいくわよ。」
と会話をしていた。
△△子ちゃんが動こうとしないので、
「おばあちゃん、先に家を教えてください。
おばあちゃんを送ったら△△子ちゃんを次に送りますから。
△△子ちゃん、動きたくないみたいだし。」
と言ってどうにか歩いてもらった。
名前を聞くと、はっきり答えてくれた。
家に家族はいるのかと聞いたら
「お父さん(旦那さん)は仕事でまだ帰ってきてないの。
新聞記者をやっていて、いつも何かを書いているのよ。
食べさせてもらっているのにこんなこと言っちゃいけないわね、うふふ。」
と上品に笑って言う。
すこし話ししていたら、警戒心を説いてくれたのか
「おばあちゃんがフラフラしてたら捜索願いだされちゃうわねぇ。」とか
「こんな格好で恥ずかしいわ」とか
宇宙語っぽくてよくわかんないこととか
いろいろ話してくれた。
何歳なんですか?って聞いたら
「わたし?もうおばあちゃんよ、ふふふ。」とウヤムヤにされた。
レディに年齢聞いちゃってごめんね、おばあちゃん。
本当に家は高架下をくぐってすぐにあった。立派なお家だった。
動かない子どもたちのことはもう忘れたようで玄関に入ってくれた。
玄関に行くまでにあった段差に俺がつまづかないように
気遣ってくれた。
「じゃぁ、僕は帰りますね。」というと奥の明かりのついた部屋に向かって
「誰かいないのー?お茶ぐらい出すわよ。」と言ってくれたけど
大事にしたくなかったのでそのまま帰った。
*
その足で駅前の交番に行った。
「◯◯さんという家で捜索願とかでてないですか?
今家まで送っていったんで、出てたら取り下げていいと思いますよ。」
と警官に伝えた。
「あ、◯◯さんね。たまにここにもよく来るんですよ。
今日は向こう行ってましたか。あと、捜索願は出てないです。
一人暮らしですから。どうもありがとうございました。」
あー、そうかー。
そうだったかー。
旦那さんのことはなんとなくわかってたけど、
家の奥に向かって話しかけてたご家族もいなかったかー。
なんとも言えない気持ちで交番をあとにして
家に向かうと、さっきおばあちゃんを見かけたところに
またおばあちゃんがいた。
そして、また家まで送った。
見つけちゃったんだもん…。
きっと、そのうちまた出ちゃうんだろうな。
でもそれには付き合うのはやめることにした。
ここからはちょっと踏み込みすぎ、
自分がメンタルをやられかねない。
交番にも行ったし、把握しているのもわかった。
次見かけたらまた考えよう。
後ろ髪ひかれつつ、コンビニで焼き芋を買って家に向かった。
*
そもそも。
放っておけばよかったのか。
声をかけなければ、気にならず家に帰って普通の金曜の夜だったのか。
おばあちゃんがやさしそうだったからか。
小学校6年の時に亡くなった自分のおばあちゃんが重なったのか。
いや、違った。
自分の母のすこし先の姿を見てしまったんだと気づいた。
母親は会うたびに年老いていっている。
世間の70歳よりは元気なのはわかる。
でも、何がきっかけでどうなるかはわからない。
ひとり暮らしをしていて、今は元気。
たまにうちまで電車で1時間かけて会いに来る。
note.muだって最近始めた。
多分しばらくは元気だ。
でも、何がきっかけでどうなるかはわからない。
父方のおばあちゃんは自分が高校の時に痴呆になった。
早く寝たきりになったから、徘徊はしなかったけど
言っていることもわからないし、下の世話は見ていて嫌だった。
何より、若い頃嫁姑問題でいじめられていたのに
母親がなぜ面倒を見るのか、おむつを替えているのか、
その理不尽さに自分は怒った。
こうなってまで生きていきたくはないとも思った。
今は、母親がそうなったら自分はどうするんだろうと考えている。
もちろん家につくまには答えは出なかった。
家についたらとりあえずあった出来事を彼氏に話した。
そして、話しながら自分たちがそうなったらどうしようかと考えた。
もちろん、すぐに答えは出せなかった。
というか、考えるのをやめた。
疲れてない時に考えることにした。
*
次にそのおばあちゃんを見かけたら声はかけようと思う。
もう知り合いになってしまったから。
でも、それだけにするかもしれない。
それもその時考えることにする。